L型アミノ酸トランスポーター1(LAT1)はがん細胞や活性化免疫細胞で高発現し、腫瘍増殖や自己免疫における免疫活性化に関与することが示されております。当社化合物はがんおよび自己免疫領域で新たな治療選択肢となる可能性を示しております。
LAT1は世界中の研究者から関心を集めており、当社は創業者が2019年まで保有したLAT1遺伝子特許を背景に、国際的に早期段階から臨床開発を進めております。ヒトでの有効性や安全性について良好な結果が得られており、米国臨床腫瘍学会(ASCO)では複数回の口頭発表を実施し、国内外の研究者から共同研究・開発の打診を受けるなど、研究者からの注目が高まっております。
出所:1. 当社調べ
注:2.全米多発性硬化症協会(National MS Society)、日本医療研究開発機構(AMED)
LAT1はSLCトランスポータースーパーファミリーに属し、がん細胞の成長・増殖に不可欠な大型中性アミノ酸の取り込みを担っております。
LAT1の構造
(a) LAT1-4F2hc複合体の図(4F2hcはオレンジ、LAT1は青色)
(b) LAT1トランスポーターの膜トポロジー
C. Lopes, et al., Cancers (Basel). 2021, 13, 203.
がん化に伴い細胞膜上のLAT1発現が亢進し、アミノ酸取り込みが増大します。実際に、胆道がん、膵臓がん、脳腫瘍など多くの固形がんで過剰発現が確認され、リンパ節転移、細胞増殖、血管新生、短い生存期間と相関します。
腫瘍微小環境では、がん細胞のLAT1依存的な特定アミノ酸過剰取り込みによりその細胞外アミノ酸が枯渇し、T細胞の活性化・分化・機能維持に必要な代謝基材が不足するとされております。結果として、T細胞の増殖・生存・エフェクター機能の低下によりT細胞は本来の抗腫瘍機能を維持できず、免疫回避が助長されます。このためLAT1阻害剤は、(1) がん細胞のアミノ酸獲得を制限して増殖を直接抑える効果に加え、(2) 免疫細胞の抗腫瘍機能回復を促す可能性が示唆されております。
全生存期間(OS)とLAT1遺伝子発現
Otani, R., Cancers 2023, 15, 1383.
実際、LAT1阻害剤は、細胞・動物レベルで有効性が示され、当社の国内第1相/第2相臨床試験では胆道がん・大腸がんで人における有効性も確認し、臨床的可能性を実証しました。
これまでの多くの研究から、LAT1は一部の自己免疫疾患の新規治療標的となり得ることが示されております。LAT1はmTOR経路を介して免疫細胞の増殖や炎症を引き起こす物質(炎症性サイトカイン)の放出を制御しており、LAT1の遺伝学的抑制やLAT1阻害剤の投与により、過剰活性化した免疫細胞からのサイトカイン産生が低減することが示されております。
この知見に基づき、LAT1機能の抑制は過剰免疫反応を鎮める新たな治療アプローチとなる可能性があります。特に、多発性硬化症のような神経に炎症が生じる自己免疫疾患では、LAT1抑制により炎症や酸化ストレス起因の神経損傷を抑える効果が期待され、神経炎症性疾患に対する有望な戦略と考えられます。