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アミノ酸トランスポーター創薬
1.トランスポーターとは
ヒトの体内で必要なアミノ酸は20種類あり、それぞれのアミノ酸輸送に機能するトランスポーターを以下の表-6に示します。

20種のアミノ酸を中性、塩基性、酸性の各アミノ酸に分け、それらを更に膜輸送がナトリウムの存在に依存するか否かに分類し、結果、アミノ酸トランスポーターは6群に分類されます。これらのトランスポーターの中で、当社の抗がん薬開発に用いる一群が下記点線内のLAT類です。

表-6 アミノ酸トランスポーター系

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2.LAT1とがん
ヒトの生体の営みは、その誕生と成長(細胞の分化~増殖~個体形成から生体の機能維持~再生~修復)、そして老化あるいは病態の発症と悪化といった経緯をたどります。その中にあって、アミノ酸はタンパク質を構成する基本材料であり、絶対的に必要な要素です。上述のとおりタンパク質を構成するアミノ酸は20種ありますが、その内8種類のアミノ酸はヒトの体内代謝で合成できない、「必須アミノ酸」と呼ばれる重要なものです。

当社関係者らは、細胞ががん化すると、必須アミノ酸の細胞膜を通した取り込みが正常細胞と異なることを発見いたしました。すなわち、正常細胞のトランスポーターLAT2とは異なる、がん細胞特有のLAT1というトランスポーターが著しく発現上昇することを、世界に先駆けて見出しました。(文献:LAT1, LAT2)

また、LAT1は、既に良く知られている発がん遺伝子のc-Mycによる制御を受けていることを最近当社関係者らが明らかにしましたので、LAT1はがんの発症機序にも深く関わることが分りました。(文献: c-Myc

図‐4の左右に、非がんのヒトと、肺がんに罹患しているヒトの、アミノ酸PETの全身画像の結果を示しております。このPETプローブはアルファメチルチロシンで、LAT1によってがん細胞内に取り込まれております。矢印で示すLAT1の高い発現部位は、明らかに肺がん部位を映し出しております。その部位の針生検像は、真中右の顕微鏡写真のように、非がん組織に比べ細胞膜の褐色が濃くLAT1が強く示されて、がん化が認められます。
図‐4 正常細胞とがん細胞におけるLAT2とLAT1の発現の差異

LAT1やLAT2は、5種類の必須アミノ酸を含む各種のアミノ酸を、細胞外から細胞内へと輸送します。LAT1やLAT2の実体は、図‐5 の模式図に示すように12回膜貫通型のタンパク質で、左隣の1回膜貫通の共軛タンパク質である4F2hc(別名CD98)と結合して機能する、ヘテロ2量体を構成しています。但し、LAT1とLAT2のアミノ酸組成は約50%の違いがあります。

図‐5 LAT1の基本構造模式図

これらのアミノ酸輸送機能を図6の赤い棒グラフで示しておりますが、赤丸で囲んだ5種類の必須アミノ酸を含む各種のアミノ酸を、LAT1及びLAT2は細胞外から細胞内に輸送する働きがあります。LAT1は上の棒グラフのように5種の必須アミノ酸を含む8種類の大型アミノ酸を輸送します。他方、LAT2は左下の棒グラフのようにLAT1が輸送するアミノ酸以外に更に7種類の小型のアミノ酸を含むより多くの種類のアミノ酸を輸送するという特徴が判ります。

図‐6 LAT1とLAT2の輸送するアミノ酸の差異

46種類の、ヒトの各種がんから樹立された細胞株に発現するLAT1とLAT2の遺伝子の発現を、定量PCR法で解析した結果を図-7に示します。LAT1遺伝子はがん由来細胞全てに発現が認められますが、LAT2は殆ど発現されていないことが明らかです。即ちLAT1はがんタイプのトランスポーターであり、LAT2は非がん(正常)タイプであると結論付けられます。

図‐7 ヒトがん由来細胞におけるLAT1とLAT2

LAT1/LAT2のpairに加えてSLC43 familyに所属の単量体で機能するがんタイプのLAT3と正常タイプのLAT4も、新たなpairとして当社の開発候補分子標的です。(文献: LAT3/4

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3.LAT1によるがんの悪性度(致死性)診断
患者さんががんと診断された場合、その致死性の程度は、各個人で大きく異なっているのが実状です。

前立腺を例にとって、がん組織の一部を針で採取した生検試料を用いて、LAT1の発現強度を調べた結果を以下に掲げます。LAT1に特異的に結合する抗体を用いてがん組織を免疫染色すると、図‐8の顕微鏡写真に認められるような4段階に分けられます。
これらの映像は左から
スコア0:染色性の無い像
スコア1:弱い染色性が局所的に認められる像
スコア2:中等度の染色が中等度の領域に認められる像
スコア3:強度の染色が殆ど全ての細胞の認められる像
の4段階に分けられます。

図‐8 前立腺がん組織の免疫染色

図‐9のグラフは縦軸に生存率、横軸に観察時間を月数で要約した結果です。スコア3、同2、同1、同0の順に生存率が有意に低下していることは大変注目されます。これよりLAT1の発現強度を用いて悪性度(致死性)を予測することが可能であることが判りました。
(文献: Prostate cancer)

図‐9 LAT1抗体による前立腺がんの悪性度診断

同様の診断は、前立腺がん以外にも肺がん、胃がん(文献: Gastric cancer) 、膵がん(文献: Pancreatic cancer)などでも認められました。従って、LAT1の発現強度によりがんの悪性度の診断が可能となり、この新しい方法は患者さん毎に最適ながん治療計画の立案に寄与することになります。

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4.LAT1阻害薬(JHP203)によるがんの治療
がんに対するLAT1とLAT2の反応の違いに着目し、図‐10の模式図に示すように、正常組織タイプのLAT2には阻害作用を全く示さず、がんタイプのLAT1のみを選択的に阻害する、低分子化合物のJPH203を化学合成いたしました。

このJPH203でがん細胞を処置しますと、がん細胞はアポトーシスと呼ばれる細胞死に陥ることが示されました。

図‐10 LAT1とLAT2の差異とLAT1選択的阻害薬JPH203の作用機序の模式図

ヒトの大腸がん組織(がん細胞塊)を、免疫寛容のマウス(ヌードマウス)に移植したモデル動物を用いてJPH203の効果を見た結果、JPH203の用量依存性に経日的に腫瘍の増殖は抑制されて、2週間の投与を中断した後の2週間は、腫瘍の増大は認められなくなりました。(文献: JPH203)

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5.LAT1阻害薬(JHP203)の臨床開発に向けての取り組み
当社は、杏林大学病院腫瘍内科古瀬純司教授のもとでJPH203 の固形がん患者を対象に第Ⅰ相臨床試験を2015年3月から開始し、2017年3月に投薬を終了しました。本試験は標準的治療法が無効あるいは不耐の患者様に、世界で初めてJPH203 の静脈内持続投与を実施し、本剤の安全性、有効性及び薬物動態の確認を目的として実施しました。

結果は、他の抗がん剤に比較して副作用が少なく、がん組織の縮小も観られ、本剤の安全性及び有効性が示されました。第Ⅰ相臨床試験の結果を踏まえ、第Ⅱ相臨床試験を実施すべく、試験実施体制の構築を進めています。

当社は、免疫組織染色による診断法(JPH211)、及び新規PETプローブ(NKO028)の確立と併せて、コンパニオン診断薬と治療薬の同時開発(診断・治療の一体化戦略)を推進して参ります。

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